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CIRCULATION 6月号
月刊循環器CIRCULATION 7月号

12年6月5日発売
A4変型判128頁
価格:本体¥2500+税
ISBNコード:978-4-287-83011-6
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特集ACSの診療

企画編集/木村一雄
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目次 特集 特集 特集
 Valentin Fuster らが1992 年に急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)の概念を提唱して以来,約20年が経過した.発症機序を念頭に置いたこの概念は,臨床現場での診断・治療法の決定にきわめて有用であり,広く用いられている.すなわち,心筋虚血によると思われる症状を訴える患者においては速やかに心電図を記録し,冠動脈の完全閉塞を示唆するST 上昇の有無から,ST上昇型ACSおよび非ST上昇型ACSに分類し,異なる治療法が行われるようになった.さらに,非ST上昇型ACSでは心筋壊死を示すバイオマーカー上昇の有無により,非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)または不安定狭心症と分類される.このように診断・分類・治療方針決定において,症状に加えて心電図に中心的な役割を与えたことにより,臨床現場に広く受け入れられてきたと思われる.
 ACS の発症には,破綻しやすいプラークの存在と破綻後の局所における血栓形成が重要である.ACSを発症したプラークの詳細な病理学的検討や,侵襲的診断法であるintravascular ultrasound(IVUS),optical coherence tomography(OCT)や血管内視鏡所見,さらには非侵襲的診断法であるmultidetector-row computed tomography(MDCT)などの対比により,生体内での不安定プラークの性状が明らかになってきた.しかし,個々のプラークが将来破綻し,ACS の責任病変になるか否かの予測は難しい.また,日本のACSではST上昇型心筋梗塞症(STEMI)が,諸外国ではNSTEMI の比率が高いとの報告が多いが,その理由は明らかでない.
 治療法では,ST 上昇型ACS においては発症早期の再灌流療法が最も有効な治療法である.最近では,primary percutaneous coronary intervention(primary PCI)が一般的に行われており,再開通率も90%以上を超えるようになったが,死亡率に関して,ここ数年はさらなる低下がみられないという報告が散見される.このような状況のブレイクスルーとして多くの試みがなされているが,そのひとつとして,早い再灌流をめざした院内外の救急医療システムの構築が挙げられる.
 一方,非ST 上昇型ACS では薬物による適切な抗血栓・抗虚血療法を行ったうえでの早期のリスク層別が重要であり,これに基づき侵襲的治療を選択するか否かを決定する.ACS の病態の中心となる血栓形成をより強力に抑制する目的で,新たな抗凝固薬や抗血小板薬が開発されており,欧米ではその一部の臨床使用が可能となっている.最近のトレンドは,強力な抗血栓効果に目を向けるだけでなく,予後悪化の強力な因子であることが明らかとなった出血性合併症をいかに減らすかに焦点を当て,その薬剤のnet/benefitという考え方が一般的となっている.また,侵襲的治療では主にPCI が選択されるが,来院後ただちに行うべきか,一定の時間をおいて行ったほうがよいのか,また病状を安定化させる必要性や有効性,およびその薬剤投与の時期などについても一定した見解が得られておらず,個々の症例に応じて対応することが望まれる.ACSは,日本での死亡数が第2 位である心疾患のなかで最も重要であり,その予防や急性期の治療の可否により予後が大きく変わりうる疾患群である.このため有効性が示された最近の予防・治療法を,患者の病態に応じて実践していくことが望まれる.
 以上,本テーマの特集は多いが,今回は臨床の第一線で活躍されている先生方を中心に,臨床現場からのダイレクトなメッセージを期待して執筆をお願いした.本特集が読者の方の新たな知識の獲得,また疑問の解決の一助となり,ACSの病態・診断・治療のstate of the artを理解していただければ幸いである.
企画編集:木村一雄
横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター 教授
1.ACSの概念と成因/佐田政隆 他
2.ACSの疫学(諸外国と比べた本邦の現状と今後の予測)/安田 聡 他
3.救急外来でのACSの診断とそのピットホールについて/石原正治
4.ACSの発症機序を侵襲的検査法から明らかにする/日比 潔 他
5.非侵襲的検査法の最先端(MRI・CTを用いたプラーク性状や心筋傷害の評価/ 加藤真吾 他
6.ACSの病態における炎症の関与/安斉俊久
7.非ST上昇型ACSの急性期至適薬物療法について/石井秀樹
8.非ST上昇型ACSにおけるPCIの適応とその施行時期/田邉健吾 他
9.ST上昇型心筋梗塞症における再灌流療法の最前線(予後改善が期待される薬物,デバイスや再生医療)/上妻 謙 他
10.ACS急性期における心臓外科の役割(CABGと機械的合併症)/坂東 興 他
11.ACSにおける急性期不整脈のスペクトルとその対策/草野研吾
12.プレホスピタルに目を向けた救急医療体制の構築/花田裕之