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遺伝的アルゴリズム
東京大学助教授 伊庭斉志 著
2002年1月25日発売
A5判/400頁
価格:本体9,800円+税
ISBNコード:4-7578-0101-7
本書は、進化論的手法の遺伝的アルゴリズム(GA)に関しての基礎から応用に至るまでの詳細な解説書である。大学生(高学年)・大学院・バイオインフォマティクス・情報・医学・バイオサイエンス関係をはじめ広範な分野の技術者・研究者を対象に特に最近の話題、実際的応用例などを中心に分かりやすく解説している。


遺伝的手法については、既にいくつかの成書がある。本書は、これまでに刊行され既にその内容が陳腐化したGAの既刊書に対して、発展の著しい「遺伝的アルゴリズム」のその後の展開、実際的応用、および最新の話題を中心により深く遺伝的手法について掘り下げた内容となっている。本書では特定のプログラミング言語の習熟を前提としないような平易な書き方を実践している。


本書では出来るだけ他分野の研究者・技術者や大学院学生にも理解可能なように執筆されている。特に分かりやすさを重んじ、ふんだんに図・イラスト・表を多用するように心がけられている。本書には学会での最新の研究成果を随所にとりいれられており、基礎から最新の動向に至るまでを分かりやすく解説している。

本書の構成

1. はじめに
 進化論的計算手法(特に遺伝的アルゴリズム、遺伝的プログラミング、人工生命)に関しての入門と歴史的概観を記述する。またインターネット、メイリングリストなどの情報源へのアクセス法、最新の研究話題を入手するための関連する国際学会、学術雑誌などに関して紹介している。


2. 遺伝的アルゴリズムの基礎
 遺伝的アルゴリズムの入門的な説明。初学者に分かるように解説をおこなっている。
2.1 スケーリング技法
2.2 GAオペレータ
2.3 選択手法
2.4 GAシステムの使用の実際

実際にGAのシステムを使ってみて遺伝的アルゴリズムのイメージを理解する。各種のパラメータの設定などの経験則なども説明している。システムとしてはpsdとなっているGAucsd1.4などを利用。

2.4.1 標準関数の最適化
2.4.2 セルラーオートマトンの進化
2.4.3 NKラントスケープでの進化
2.4.4 ハードウェアの進化


3. 遺伝的アルゴリズムの理論
 遺伝的アルゴリズムの理論の基礎的説明。初学者に分かるように解説している。
3.1 スキーマ定理と暗黙の並列化
スキーマの説明、k本腕の山賊の例えなど、遺伝的アルゴリズムの探索の理論的根拠を説明している。

3.2 だまし関数
GAにとって探索が困難な問題とは何か、を説明している。

3.3. 遺伝的アルゴリズムの表現問題
 遺伝的アルゴリズムを実際に応用する際に重要な「表現の問題」を説明する。これは、遺伝的アルゴリズムのオペレータが作用する遺伝子型と適合度の計算を行うための表現型の変換をいかに設計するかという問題である。この設計は対象となる問題に強く依存し、変換が的確でないと遺伝的アルゴリズムが効率的に作用しない。とくに遺伝オペレータの効果は変換のなされ方に左右される。ここでは、実例により表現設計がいかに遺伝的アルゴリズムの探索に影響を与えるかを解説する。さらにこれらの表現の問題を解決するために、遺伝的なオペレータの作用部位を適応的に進化させる手法について説明している。

3.4. ロイヤルロード関数と探索効率
 ロイヤルロード関数は遺伝的アルゴリズムの始祖であるJohn Hollandにより考案された評価関数である。これは遺伝的アルゴリズムの探索、とくにスキーマの獲得に関して理論的研究の試金石として盛んに利用されている。ここではこの関数を用いた進化論的な手法の探索効率に関する理論的研究を説明している。

3.5. 適合度ランドスケープ
 GAの拡張、特に表現やオペレータの新たな設計を行った場合、それが有効なのかどうかの理論的解析は極めて重要である。そのための一手法として適合度空間におけるランドスケープ解析がある。これは適合度とオペレータ(表現)の相関関係を統計的に解析し、有効性を定量的に吟味するというものである。もともとこの手法は「数理進化学」の常套手段として定着していた。ここではこの手法の詳細を実際応用例とともに解説。


4. 遺伝的アルゴリズムの拡張
4.1. クラシファイアー・システム
 遺伝的手法の人工知能への応用システムの1つとして盛んに研究されているクラシファイアー・システムに関して説明する。本システムはGAとプロダクションシステムの統合を目指したものであり、エキスパートシステム、ロボットの制御などに応用されその有効性が確かめられている。

4.2. 倍数体遺伝子と遺伝的アルゴリズム
人間を含む多くの動植物で遺伝子は2倍数体(2組のペアー)となっている。それにも関わらずほとんどの遺伝的アルゴリズムでの遺伝子は1倍体(一本の遺伝子のみ)である。この理由は主に実装のしやすさに起因する。しかしながら2倍数体の遺伝子を実現することにより、遺伝的アルゴリズムを拡張することに何らかの利点はないのであろうか? いくつかの研究によってこうした2倍数体の遺伝的アルゴリズムが頑強性などの点で優れた成績であることが示されている。ここでは、2倍数体(2組のペアー)に拡張した遺伝的アルゴリズムについて実例をもとに説明している。

4.3. 実数型遺伝アルゴリズム
多くの工学的応用は実数値での最適化を扱っている。このため通常の遺伝アルゴリズム(バイナリ表現の遺伝子)では効率的に探索が出来ないことが多い。ここでは実数型遺伝アルゴリズムと呼ばれる実数関数最適化のための拡張を説明している。

4.4. 多目的関数最適化と遺伝アルゴリズム
複数の目標を同時に最適化したいことや、ある制約下での関数最適化を実行したい場合の遺伝的アルゴリズム手法について述べる。


5. 遺伝的アルゴリズムの新展開
5.1. 共進化と遺伝的アルゴリズム
共進化は進化の原動力を探る新しいキーワードとして注目されている。またこの考えに基づいて遺伝的アルゴリズムの拡張もなされており、工学的な有効性も確認されている。それらは、最適化すべき関数が明示的に与えられない場合の最適化手法の実現、及び多数のエージェントのための協調的な行動を進化論的手法に基づいて創発させる研究などである。ここでは共進化の原理を説明し、それに基づく遺伝的アルゴリズムによる共進化の実験ついて説明している。

5.2. 可変長遺伝子とイントロン
 イントロンとは遺伝子の中で発現されないデータのことを指すが、これはかならずしも冗長で無駄な情報ではない。イントロンが有ることにより、探索効率が良くなるという研究報告もある。このことは実際の生物にもあてはまる。高等動物のDNAが必ずしも多くはなく、人間よりもカエルやイモリのほうがDNA量は多い(C値のパラドックスと言われる)。またDNAがそのまま情報としての遺伝子ではなく、余分な部分を切り張りしてから転写されるということも知られている。イントロンと遺伝的探索手法の効率に関してはまだ未解決の問題が多々あるが、これらの研究が進化論的計算手法の1つの理論的基盤を提供するものと期待される。ここではイントロンと遺伝的アルゴリズムとの関係について説明する。cf. DPEとSAGAについてもふれている。

5.3. 性選択と遺伝的アルゴリズム
 「クジャクの羽はなぜあれほど美しいか?」というのはダーウィンすらを悩ませた問題である。これは外敵に狙われるほど目立ちやすく、また美しさを維持するのに困難な羽は生き残りにとって不利であるにも拘わらず、進化の過程で淘汰されなかったというパラドックスである。最近の研究では、「雌の好みによる進化の加速作用」として説明されている。この効果は人工生命のシミュレーションとして確認されており、さらに遺伝的アルゴリズムの探索の拡張の一手法としても注目されている。


6. おわりに
 まとめと今後の展望について説明。


参考文献