HOME看護セミナー >整形外科での看護実践能力を磨く〜人工膝関節置換術とは,どのような手術なのか?〜
 人工膝関節置換術の目標は,「痛みがなく,安定した,可動域の良い,一生もつ膝」を作り,ADLを向上させ,合併症を起こさないことです。このため,膝の解剖と関節運動への理解が必要です。
 手術は,末期の変形性膝関節症や関節リウマチなどに適応され,病態と変形に応じ,骨変形の矯正(骨切り)と軟部組織(靭帯)バランスの調整,安定性と可動域の確認,インプラントの設置と進みます。
 手術は,高齢の患者に「けが」を負わせることであり,しかもインプラントという「異物」を設置する点が特殊です。合併症である感染・出血・血栓・内科的イベントの発生に注意が必要です。術中・術直後のみならず,術後20年目の晩期感染など患者の生涯にわたって,合併症は起こりえます。臨床現場で遭遇する合併症の診断,予防,治療を理解しましょう。術後クリパスを使用しますが,合併症でパスから外れた患者は自分だけ遅れたことを悩みがちです。こうした方こそ,「病態の把握」と「心のケア」が必要です。


笹崎義弘 先生
国立病院機構 村山医療センター
整形外科 人工関節センター長
【講師からのメッセージ】
 人工膝関節置換術の目標は,痛みなく,安定した,可動域のよい,一生もつ膝を作り,術後合併症を起こさないことです。このためには,膝の機能解剖,手術手技と侵襲,合併症の診断と治療への理解が必要です。
 手術は変形性膝関節症や関節リウマチなどに適応され,骨の変形を矯正し,軟部組織のバランスを取り,インプラントを設置します。手術室の環境整備と骨と軟部組織に対する愛護的操作は,感染・出血に対する予防策となります。
 術後クリパスを使用しますが,合併症のためパスから外れる患者がいます。こうした方にこそ,病態把握と心のケアが必要です。病棟で役立つ合併症(感染,出血,血栓,骨折など)の診断,予防,治療を理解しましょう。

【本セミナーの目標】
1. 膝関節の機能解剖と運動(バイオメカニクス)への理解
2. 安定性と可動性,耐久性を得るため進歩してきた人工膝関節と手技への理解
3. 手術室における合併症(感染,出血,血栓)を避けるための対策への理解
4. 病棟における術前・術後管理,リハビリテーションへの理解
5. 人工膝関節の合併症の診断,予防,治療への理解

Program(10:00〜16:30)
1. 膝関節の機能解剖と生体力学(バイオメカニクス):1時間
 平らな脛骨の関節面の上に丸い大腿骨顆部がのるため,膝関節はすわりが悪い。膝関節を安定させているのが4本の靭帯と2つの半月です。靭帯は膝関節を安定させ,正しい運動を誘導するロープで,半月は大腿脛骨関節のすきまを埋めるクッションです。人工膝関節ではインプラントをいかに膝にフィットさせるかが大切です。このため,膝の機能解剖とバイオメカニクスを理解しましょう。
2. 人工膝関節の歴史(現在の表面置換型人工膝関節が開発されるまで):1時間
 1950年代,屈曲・伸展運動のみを許容したヒンジ型人工膝関節が開発されましたが,ヒンジの破損,インプラントが骨からゆるむ問題が起きました。膝は屈曲・伸展,内反・外反,内旋・外旋など複雑な運動をする関節であり,これを軽視したためでした。失敗を踏まえて,インプラントの表面形状により関節適合性の確保し,軟部組織のバランスを整えることで関節安定性と適切な運動を得る現在の人工膝関節が開発されました。歴史から人工膝関節の問題点と今後の改善策を学びましょう。
3. 人工膝関節の手術手技,インプラントのデザインと材料と固定法:1時間
 手術はクリーンルームで硬膜外麻酔と全身麻酔下に行い,その流れは,消毒とドレッシング,抗生剤投与,駆血,皮膚切開とアプローチ,骨切りによる変形の矯正,軟部組織のバランス調整,伸展・屈曲ギャップの調整,インプラントの設置と固定法の選択(セメント,セメントレス),洗浄と回収血ドレーン設置,閉創と,弾性ストッキング装着となります。術後合併症を避けるための小さな配慮の積み重ねを紹介します。
4. 人工膝関節の術前・術後管理,リハビリテーション:1時間
 看護師や主治医によるばらつきをなくすため,術前検査から術後病棟オーダーまでクリパスを導入しています。パスは完成したものではなく,外来,病棟,手術室,検査科,栄養課,整形外科医,そして患者さんとも相談しながら,更新します。また,パスから外れる患者さんがいますが,こうした患者さんにこそ配慮が必要です。実際の症例提示をしながら,どうすればよいのか考えていきましょう。
5. 人工膝関節の合併症の早期診断,予防と治療:1時間
 感染,出血,静脈血栓(深部静脈血栓症,肺塞栓),骨折(大腿骨顆部・顆上骨折),内科的合併症(心筋梗塞,NSAIDによる上部消化管出血,脳梗塞),抗生剤アレルギーによる皮膚トラブル,血栓対策(抗凝固療法)による皮下出血など術後合併症が起きた場合,診断と治療,予防を理解しましょう。
※上記内容・進行予定は,変更する場合があります。