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BEAUTY 18年創刊号
消化器内科 第10号(Vol.2 No.9,2020)

2020年8月25日発売
A4変型判/96頁
定価4,400円(本体4,000円+税10%)
ISBNコード:978-4-287-92010-7

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特集●慢性便秘の考え方ー治療目標と新規下剤の位置づけを含めてー

企画編集/三輪洋人(兵庫医科大学 副学長/兵庫医科大学 消化器内科学 主任教授)
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 最近,新しい便秘薬の発売ラッシュである.新薬の登場により,われわれは便秘に対してほとんど関心を持っていなかったことに気づく.皮肉なものであるが現実である.そういえば,医学部の授業で便秘について学んだことはほとんどないし,便秘治療に情熱を傾けてきた医師もそれほど多くないはずである.これは便秘が簡単な疾患であるからではなく,われわれが便秘に対して真剣に対応してこなかったからである.
 しかし,便秘患者は日々医療機関を訪れる.待ったなしに下剤を処方する必要性にかられている.そんな状況下では何も考えずに,以前先輩から教わり,これまで使い慣れた下剤を画一的に処方するのが一番である.使い慣れたいつもの処方を漫然と用いるのである.日本における便秘薬の処方が,欧米諸国とはまったく違ったものになっているのはこのせいなのかもしれない.以前,日本で胃潰瘍の治療薬の市場が欧米のそれとはまったく違ったものであった状況を思い出す.欧米では効果なしとしてほとんど使用されなかった防御因子増強薬が,日本では頻用されていた.日本の便秘薬の使用法は明らかに諸外国のものと異なっているが,われわれは間違っていたのだろうか? 結論から述べると決して間違った治療をしていたわけではないが,それに関する検証がなされてこなかった.日本では,便秘治療薬の効果や副作用に関する臨床研究がほとんどなされてこなかったからである.
 やはり初心に戻って,正しく便秘を理解し,その治療法を新しく考え直したい.当然の思いである.しかし,これらを自分で整理して学ぼうとしても,それがそれほど簡単ではないことにすぐに気づく.まず,「便秘ってなに」という命題からつまずいてしまう.便秘を自覚する人は多いが,その人たちは本当に便秘という疾患を持つ患者なのであろうか? 研究用の複雑なRome診断基準は存在しても,日常的に使用できる簡単な基準はなく,便秘という疾患名が独り歩きしているのがわかる.ましてや治療にあたっては「なぜ治療する必要があるのか」から始めなければならない.「どう治療するのか」はそのあとの問題である.便秘治療の必要性やその目標を述べることは簡単ではないし,便秘がなぜ起こるのかという病態生理を理解していなければどう治療するかには答えられない.ましてや,次々と発売される便秘薬の作用機序を理解し,それをどう位置づけるかは,さらに困難な命題であろう.
 2017年に日本消化器病学会付置研究会から「慢性便秘症診療ガイドライン」が発刊された.消化器系のガイドラインの売り上げは通常数千部であるが,便秘のガイドラインはあっという間に25,000部を売り上げ,ベストセラーとなった.これは「便秘をもう一度勉強し直してみたい」「便秘治療の新しい考え方を知りたい」という思いを多くの医師が持っていたからではないかと思う.
 本書では日本における便秘研究のトップランナーの先生たちに,便秘についてわかりやすく,しかも詳しく解説していただいた.本特集号では治療に重点を置いた構成になってはいるが,疫学から定義,診断,病態生理についてもわかりやすく解説していただいた.治療に関しては,その意義,目標,生活習慣の重要性を述べていただいたうえで治療薬の各論を解説していただいた.作用機序,効果,注意すべき副作用はもちろんのこと,多くの治療薬の中での各薬剤の位置づけについて先生方の考えを交えて論じていただいた.結果として,とても読みごたえのある特集になったと感じている.ご多忙の中,執筆を快諾していただいた執筆者に御礼を申し上げるとともに,本特集号が読者に便秘診療の新しい考え方を学んでいただく一助となれば幸甚である.

三輪洋人
兵庫医科大学 副学長/兵庫医科大学 消化器内科学 主任教授


1.日本の慢性便秘患者の疫学/北條麻理子,永原章仁
2. 慢性便秘症の定義と診断/大島忠之,三輪洋人
3. 便秘の分類と病態生理/澤 素,福土 審
4. 便秘治療の意義と必要性/上田 孝,森 英毅,鈴木秀和
5. 生活習慣改善による便秘治療の有用性と効果/穗苅量太,杉原奈央
6. 便秘治療薬としてのプロバイオティクス/内藤裕二
7. 浸透圧性下剤の効果と使い方/小笠原尚高,春日井邦夫
8. 刺激性便秘薬の効果と使い方/富田寿彦,三輪洋人
9. 漢方による便秘治療とその位置づけ/眞部紀明,綾木麻紀,中村 純,藤田 穣,春間 賢
10. 上皮機能変容薬の種類と効果/福土 審
11. IBAT阻害薬の有用性とその位置づけ/中島 淳
12. 小児の便秘の現状と対策/宮本卓哉,鏑木陽一郎,永田 智
推薦のことば(第9号 特集 大腸腫瘍に対する拡大内視鏡診断)/藤井隆広