
特集●進行再発大腸癌薬物療法―最新エビデンスの実践―
| 企画編集 | :谷口浩也 |
|---|---|
| 発行 | :2026年5月(2026年4月27日発売) |
| 判型 | :A4変型 |
| 頁数 | :80 |
| ISBN | :978-4-287-92038-1 |
| 定価 | :4,400円(本体4,000円+税10%) |
特集にあたって
大腸癌はわが国において罹患数・死亡数ともに多い主要ながんであり,近年も微増傾向である.進行再発例に対する薬物療法はここ十数年で大きく進歩した.フッ化ピリミジン系抗がん薬,オキサリプラチン,イリノテカンといった細胞障害性抗がん薬に加え,抗VEGF抗体薬や抗EGFR抗体薬などの分子標的治療薬が導入され,さらに近年ではMSI-H大腸癌に対する免疫チェックポイント阻害薬,BRAF変異例,HER2陽性例に対するドライバー分子に対する標的治療など,バイオマーカーに基づく個別化医療も急速に進展している.こうした治療の進歩により,進行再発大腸癌の予後は着実に改善している一方で,治療戦略は年々複雑化している.
日本の大腸癌診療では,多くの施設において,薬物療法を消化器外科医が中心となって担ってきた歴史がある.しかし近年,外科医の減少や働き方の変化などを背景に,今後は外科医が薬物療法を継続的に担うことが難しくなる可能性も指摘されている.こうした状況のなか,今後は消化器内科医が積極的にがん薬物療法へ関与するべきであろう.消化器内科医は,消化管の生理・病態に関する深い理解を背景に,腸管機能や栄養状態,胆膵系合併症,腸閉塞など消化器特有の問題を総合的に評価しながら診療を行うことができる.これは進行再発大腸癌患者の長期治療を支えるうえで大きな強みとなる.
さらに,消化器癌の薬物療法は他臓器のがん領域と比較してエビデンスと実臨床のギャップが大きい分野でもある.臨床試験では厳格な選択基準が設けられる一方,実際の診療では高齢患者や併存疾患を有する患者,栄養状態が不良な患者など,多様な背景をもつ患者を診療する必要がある.そのためガイドラインを単純に適用するだけではなく,患者ごとの病態に応じた柔軟な治療戦略が求められる.
一方で近年,AI技術の進歩により,膨大なエビデンスやリアルワールドデータを統合し,最適な治療レジメンを提示するような医療支援システムの実用化も現実味を帯びてきている.将来的には,治療レジメンの候補を提示する役割の多くをAIが担う可能性もあるだろう.しかし,そのような時代において医師に求められる役割は,むしろ一層重要になる.消化器癌診療では薬物療法のみならず,外科手術,放射線治療,IVRなど幅広い治療選択肢が存在する.これらを横断的に理解し,患者ごとに最適な治療戦略を構築する能力は,AIを適切に活用するためにも不可欠である.
さらに重要なのは,治療のマネジメントと患者に向き合う時間である.AIの活用により情報整理や治療選択の負担が軽減されれば,医師はより多くの時間を患者との対話や症状マネジメント,治療継続の支援に充てることができる.こうした「患者に割く時間」の増加こそが,治療継続率や生活の質を高め,最終的には患者アウトカムの向上につながる可能性がある.人口減少社会を迎える日本の医療において,AIを活用しながら質の高い医療を持続可能に提供していくことは,今後の重要な課題である.
本特集では,進行再発大腸癌に対する薬物療法の最新の知見を整理し,消化器内科医が日常診療のなかで理解しておくべきポイントをわかりやすく解説することを目的とした.内視鏡診療を中心とする先生方を含め,多くの消化器内科医にとって本特集が大腸癌薬物療法を身近に感じる契機となり,今後の診療の一助となれば幸いである.
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