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WOC Nursing 第115号(Vol.13 No.1 2025) |
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A4変型判
2024年12月発行
定価2,640円(本体2,400円+税10%)
ISBNコード:978-4-287-73115-4
全ページカラー印刷
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特集●坐骨部褥瘡の予防とケアのための車椅子シーティングのテクニック
企画編集/久徳茂雄 |
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筆者が,今の職場に赴任して半年くらい経ったころ,近訪問診療クリニックから,何年も治らない床ずれを診てほしいと依頼を受けました。70代後半の女性は,車椅子生活者で,大きなポケットを有する坐骨結節に至る褥瘡には感染もあり,すぐに根治術ができる状態ではなく,早速,治療計画カンファレンスを行いました。まず,積極的な頻回洗浄と軟膏塗布による保存治療を始めてもらい,術前3週間の局所陰圧閉鎖療法後,大腿後部の筋皮弁にて再建しました。術後2週間は腹臥位で創部の免荷をして入院後2か月半で自宅に帰ることができました。この患者がきっかけでもあり,当院に関西初のシーティング外来を8年前に再設,月1度の術後フォローの外来受診時に合わせて,フットサポートや,座椅子のクッションの調整などを,自宅での生活の様子などを訊きつつ行っていきました。術後10年目の現在,褥瘡の再発はありません。
もう一人,本号の8章「急性期病院にシーティングが必要な理由」のページに登場する外科治療を行った若者についても紹介します。20年以上前,前任の病院で,まだ赤ん坊だった彼は二分脊椎により,腰のあたりに突出した椎骨の変形があり,その部分の潰瘍治療をしていました。その後,脊椎の形成術を行い,仰臥位で寝ることができるようになりました。何年も経って,彼が大きな坐骨部褥瘡を作ってきたのは高校生のときでした。2つの病院の褥瘡対策チームの周術期連携により,手術も問題なく行いえて,退院後,修学旅行にも参加,好きだった水泳も再開できたようです。退院時には,いざり歩行からプッシュアップ歩行の訓練をし,もう,3年再発なく経過しています。終診時のシーティング外来で「もう,卒業やなぁ」とは言っても,生涯,再発のない車椅子生活のケアの必要性から,患者−医療者の関係は切れないことはお互い理解しあってのことです。
15年以上前に日本褥瘡学会で褥瘡治療ガイドライン委員会が発足され,手術適応の基準化と周術期管理の統一について討議が始まっていたころ,坐骨が,仙骨や大転子より先に取り上げられ,不思議に思った筆者は,ワーキンググループのシンポジウムの司会者に,「なぜ最も治りにくいかもしれない(車椅子使用者にできる)褥瘡を真っ先に取り上げるのか?」と質問したことがありましたが,回答は,最も頻度が高いから,ということでした。再発防止の検討項目として車椅子シーティングなどのケアに関するCQもなく,手術によりいったん治癒した坐骨部に褥瘡の再発をみて,患者とともにがっかりしたことが少なからずあった筆者には,術後ケアの不十分に疑問をもつのみでした。シーティング外来を今,こうして行いえていること,当時は想像もできなかったと隔世の感を禁じえません。
この特集号では,坐骨部褥瘡が車椅子患者にはきわめて深刻な疾患であり,他の褥瘡と違い,日常生活に戻れば,容易に再発してしまうリスクを知り,なぜシーティング外来が褥瘡対策に必要であるか,について,各執筆者が,それぞれの専門分野において熱く語ってくださっています。本号をリレー論文のようにトータルに読んで,坐骨部褥瘡の予防とケアに欠かせない車椅子シーティングについて理解いただき,日々の臨床に役立てることができれば幸いです。
久徳茂雄
(市立奈良病院 再建形成外科)
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- 在宅での坐骨部褥瘡の車椅子シーティング/岩谷清一
- 在宅褥瘡の管理の実際/木下幹雄
- 椅子・車椅子のシーティングとは? 〜シーティング技術により寝かせきりを予防する〜/木之瀬 隆
- 坐骨部褥瘡発生の力学的要因─圧力とずれ力─/小原謙一
- 車椅子座面におけるせん断力の定量的計測の試み/白銀 暁
- 車椅子アスリート支援/杉山真理
- 坐骨部褥瘡の車椅子の調整の実際/土中伸樹
- 急性期病院にシーティングが必要な理由─作業療法士のかかわり─/溝井昌子
- 脊髄損傷者の坐骨に発生する褥瘡予防のための空気室構造クッションの使い方/森田智之
- 車椅子のメカニズムが与える座位姿勢への影響/青木匡志
- 褥瘡の予防的ケア/日熕ウ巳
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