特集●糖尿病一次予防のエビデンスと実践
企画編集 | :曽根博仁 |
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発行 | :2025年5月 |
判型 | :A4変型 |
頁数 | :96 |
ISBN | :978-4-287-82152-7 |
定価 | :4,400円(本体4,000円+税10%) |
特集にあたって
糖尿病の「治療」に毎日忙殺されている糖尿病専門医やメディカルスタッフが,つい忘れがちな視点が糖尿病の「予防」である.
糖尿病はたとえば,わが国で年間約1万4000人の腎透析導入の原因疾患になっている.もしも糖尿病にならなければ,これらの方々は透析にならなかったはずである.私たちは,膨大な数の発症後の糖尿病患者さんたちの合併症を予防するために,毎日奮闘しているわけであるが,もしも糖尿病そのものの発症を予防できれば,合併症は起きえない.その意味で糖尿病一次予防は,最も確実かつ効率的な合併症防止策であり,「究極の糖尿病対策」ともいえる.
糖尿病に限らず生活習慣病を予防するためには,詳細な発症リスク因子の解明とそのコントロールが不可欠である.遺伝背景や生活習慣・環境の影響を強く受ける糖尿病の予防には,それらが大きく異なる人種・国ごとにリスク因子を解明し,エビデンスとして確立していくことが求められる.
糖尿病発症のリスク因子は従来,主に一般住民対象のコホート研究において検討され,基本的なリスク因子(あるいは予測因子)は,かなり解明された.しかし,たとえば最も基本的な因子のひとつである肥満についてさえ,何歳ごろからのどの程度の体重増加が糖尿病発症リスクをどの程度上昇させるか,などの詳細な解析は,従来型コホートでは人数や追跡期間が不足することが多い.さらに,開始時に調査された項目以外から,未知のリスク因子を探索することも困難である.近年のリアルワールドビッグデータ解析は,そのような従来型研究の限界を乗り越える大きな可能性を有する.たとえば,多数の項目を毎年繰り返し測定している健康診断や人間ドックのデータを,専門医の視点から解析すれば,より現場に活用しやすい新たな糖尿病予防エビデンスを産み出すことができる.
とくに2型糖尿病の発症においては,前記のように遺伝因子が強く影響するため,糖尿病のなりやすさにはもともと大きな個人差があり,さらに食事,運動をはじめとする生活習慣や生活環境因子も色濃く影響する.したがって,遺伝的リスクに応じ,さまざまな修飾可能(modifiable)な手法を組み合わせることにより,発症リスクの低下あるいは発症時期の遅延が可能になる.さらには,いったん発症後も「寛解」させることが可能になれば,患者さんだけでなく,多忙を極めるわれわれ糖尿病専門家にとってもきわめてメリットが大きい.
本号では,2型糖尿病のみならず1型,小児,妊娠糖尿病なども含め,リスク因子に始まり,それらを活用した介入による予防エビデンスまで,広く糖尿病「予防」をテーマとした.多くの患者さんと接し,境界型を含む糖尿病の病態や患者さんの生活習慣・環境を肌で理解している糖尿病専門医や療養指導士は,治療のみならずその予防についてもエキスパートになれるはずである.本特集が予防という「究極の糖尿病対策」について考える機会になれば幸甚である.
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