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月刊糖尿病別冊 インクレチン
月刊糖尿病別冊 インクレチン

2009年12月21日発売
A4変型判/144頁
¥4,800+税
ISBNコード:978-4-287-82901-1

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目次 1章 2章 3章
 インクレチンはインスリン分泌を促進する作用(インクレチン作用)を有する消化管ホルモンである.わが国においてもインクレチン関連薬がいよいよ臨床の現場に登場しようとしている.
 インクレチン関連薬の特徴として,第一に,基本的に低血糖を起こさずにインスリン分泌を促進すること,第二に,これまでの糖尿病治療薬と作用メカニズムが異なるために,原理的にこれまでのあらゆる糖尿病治療薬との組み合わせが可能であること,第三に,体重を減少させる,あるいは増加させないこと,そして最後に,少なくとも動物モデルにおいて膵島保護作用が認められること,が挙げられる.このような理由から,インクレチン関連薬は多くの利点を併せ持つ2型糖尿病治療薬として大いに期待されている.
 主なインクレチンホルモンとしてGLP-1とGIPが知られているが,インクレチン研究の歴史は19世紀前半にまでさかのぼる.その後のインクレチンに関する研究の進歩は,まったく新しい2型糖尿病の治療薬としてのインクレチン関連薬の開発を可能にした.
 現在,インクレチン関連薬には,GLP-1受容体作動薬(インクレチン・ミメティック)とDPP-4阻害薬(インクレチン・エンハンサー)があり,いずれも欧米ではすでに2型糖尿病の治療に用いられている.前者は,GLP-1受容体に特異的な薬剤であり,注射薬である.治療によって得られる血中GLP-1レベルは生理的濃度よりはるかに高く薬理的濃度である.一方で,DPP-4阻害薬は経口薬であり,血中のGLP-1だけでなくGIPのレベルを生理的範囲で上昇させる.これらのインクレチンの作用には,インクレチン作用を含む膵島への作用とそれ以外の臓器に対する作用(膵外作用)があり,したがってインクレチン関連薬の作用を理解するためには,GLP-1とGIPそれぞれの,膵島への作用と膵外作用を知る必要がある.
 今回は,このように期待され,治療薬としてわが国においても間もなく臨床に登場する,インクレチンをめぐる最新の知見について取り上げた.「インクレチンの概念と研究の歴史」ではインクレチンがどのように発見され薬剤の開発にまで至ったかについて,「インクレチンの基礎」ではインクレチンの分泌・作用・分解の基礎について,「インクレチンの臨床応用」では欧米ですでに臨床に用いられている,あるいは間もなく用いられるインクレチン関連薬で,わが国においても間もなく登場するであろうGLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬に関する臨床データについて,最後の「インクレチン関連薬剤の糖尿病治療における展望」では,1型糖尿病や膵島移植におけるインクレチン関連薬の可能性と,2型糖尿病治療におけるインクレチン関連薬剤の位置づけについて,各分野の第一人者の先生方に執筆をお願いした.ご多忙にもかかわらずご執筆いただいた諸先生に感謝申し上げるとともに,本誌が読者のインクレチンに関する理解の一助となることを願う.
稲垣暢也
(京都大学大学院 医学研究科 糖尿病・栄養内科学 教授)
I 序文 稲垣暢也
インクレチンの歴史と概念(清野 裕 他)

インクレチンとは?/「インクレチン」の概念誕生とGIPおよびGLP-1が同定されるまでの歴史/「インクレチン」の血中動態と糖尿病における異常/「インクレチン」関連薬の現況と今後の展開

II インクレチンの基礎
1. インクレチン分泌の機序(羽田勝計 他)

K細胞とL細胞の局在/GIPとGLP-1の遺伝子発現機構/インクレチンのプロセッシング/インクレチンの分泌/最近のインクレチン分泌に関する話題

2. インクレチンの膵β細胞におけるインスリン分泌増強機構(清野 進 他)
グルコース応答性インスリン分泌におけるcAMPシグナルの重要性/インスリン分泌におけるPKAの作用/PKA非依存性経路によるインスリン分泌増強/cAMPシグナルによるインスリン分泌顆粒動態の制御/cAMPによるインスリン分泌増強におけるRap1の役割/cAMPによるインスリン分泌顆粒動態の制御とEpac2A/Rap1シグナル/cAMPコンパートメントとインスリン分泌/インクレチンによるグルカゴン分泌の制御

3. インクレチンによる細胞量の調節(仁木一郎)
膵β細胞量の調節と糖尿病治療/ 糖尿病治療戦略のシフト/インクレチン関連物質による膵β細胞量の増加 -分化と増殖/インクレチン関連物質による膵β細胞量の減少抑制 -膵β細胞死からの保護/DPP-4阻害薬が膵β細胞量に及ぼす影響は?/インクレチンが変えた分泌と細胞死の概念

4. インクレチンの膵外作用:中枢神経系への作用(古家大祐 他)
GLP-1の摂食抑制作用/中枢神経GLP-1および循環血中GLP-1の中枢神経作用に関する作用点/GLP-1の神経反射性作用?消化器作用・インスリン分泌促進作用-/GLP-1のエネルギーバランスにかかわるその他の中枢神経作用/GLP-1のその他の中枢神経作用/味覚とGLP-1/GIPの中枢神経作用

5. インクレチンの膵外作用: 心血管系への影響(柏木厚典 他)
GLP-1の心機能への直接効果/GLP-1の血管作用/GLP-1による虚血心筋の保護作用/GLP-1による心血管リスクへの影響/インクレチンに基づく治療と心血管リスク

6. インクレチンの膵外作用:肥満について(山田祐一郎)
インクレチンとは/メタボリックシンドローム型2型糖尿病への効果

7. インクレチンの膵外作用:骨について(山田千積)
糖尿病性骨症/骨代謝のメカニズム/GIPの骨への作用/GLP-1の骨への作用/ヒトにおけるインクレチンの骨代謝への影響

8. Dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)( 原田範雄)
DPP-4とは/DPP-4とインクレチン

III インクレチンの臨床への応用
1. インクレチン・ミメティック:エキセナチド(荒木栄一 他)
Exenatide(エキセナチド)/構造/薬理動態(吸収・代謝・排泄)/2型糖尿病に対する治療効果/血管合併症とエキセナチド/Exenatide LAR(Exenatide long-acting release)/副作用

2.インクレチン・ミメティック:リラグルチド(加来浩平)
製剤学的特性および薬理作用/臨床効果

3. インクレチン・エンハンサー:ビルダグリプチン(岩本安彦)
インクレチン・エンハンサー/ビルダグリプチンの作用/ビルダグリプチンのヒトにおける薬物動態と薬力学的効果/海外におけるビルダグリプチンの臨床試験成績/日本で行われた臨床試験成績/ビルダグリプチンの臨床試験における安全性と忍容性

4. インクレチン・エンハンサー:シタグリプチン(谷澤幸生 他)
薬理作用/臨床成績(ヒトにおける薬理作用を中心に)/安全性

IV インクレチン関連薬剤の糖尿病治療における展望
1. 1型糖尿病治療への可能性(難波光義 他)
注目を浴びるインクレチン治療/1型糖尿病モデル動物における知見/ヒト1型糖尿病におけるGLP-1受容体作動薬の臨床効果

2.インクレチンと膵島移植:膵島移植におけるインクレチンの有用性(稲垣暢也 他)
膵島移植の現状と問題点/膵島移植におけるインクレチンの可能性/膵島移植におけるインクレチン関連薬の有用性

3. 2型糖尿病治療におけるインクレチン関連薬剤の位置づけ(門脇 孝 他)
2型糖尿病の自然史/現在の糖尿病治療薬/インクレチン関連薬剤/GLP-1受容体作動薬(インクレチン ・ミメティック)/DPP-4阻害薬/DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬の比較