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MEDICINAL2月号
MEDICINAL 2012年2月号

2012年1月25日発売
A4変型判/112頁
価格:本体2,500円+税
ISBNコード:978-4-287-84005-4
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特集糖尿病性腎症治療と腎症治療薬の新しい展望

企画編集/槇野 博史
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目次 特集 特集 特集
 糖尿病性腎症は糖尿病合併症のなかでも,頻度が高く予後を左右するので重要である.JDDM研究によっても糖尿病患者の約4割が腎症に罹患している.
 日本の医療における問題点として透析患者の増加とそれに伴う医療費の増加がある.日本の透析患者は毎年約1万人近くの割合で増加の一途をたどり,2010年末には29万人を超えた.これは国民の500人にひとり以上が透析療法を受けているという計算になる.2010年の1年間において日本では3万7532人が新たに透析に導入され,その原因疾患では糖尿病が最も多く43.5%を占めた.高血圧と加齢による腎硬化症は11.6%を占めており,糖尿病と高血圧による生活習慣病が50%以上を占め,問題となっている.
 私は学生時代に糖尿病性腎症がネフローゼ症候群を呈するのに興味を擁き腎臓病学を志し,糖尿病性腎症の病態解明と治療法の開発とevidenceの構築に努めてきた.糖尿病性腎症の進展と心血管障害の発症リスクの上昇の間には連関があり,患者の生命予後を脅かすため,まさしく腎臓は全身を制御する臓器であるといえる.糖尿病性腎症の進展過程には,糸球体過剰濾過・糸球体肥大,炎症やアポトーシスによる細胞数の減少,糸球体硬化と間質線維化による腎機能の廃絶という進行性の病態が存在する.それはまさしく正常耐糖能,耐糖能異常,2型糖尿病へと進展する過程で,膵ランゲルハンス島の肥大・細胞増殖と高インスリン血症が初期にもたらされ,ラ氏島炎症やアポトーシスによって細胞の減少が進行し,最終的にはラ氏島の線維化によってインスリン分泌能の廃絶がもたらされる過程と類似性がある.
 腎症初期の糸球体過剰濾過や糸球体肥大の過程には血管新生のプロセスが重要であり,その抑制が治療効果を発揮することを示した.また細胞周期の異常が糸球体肥大の原因となっておりその是正が腎症を抑制することも示した.それに続く腎症の進展過程においてはmicroinflammationが重要であり,ICAM-1やMacrophage scavenger receptor-Aといった接着分子のノックアウトマウスでは炎症が抑制され腎症が改善することを示し,抗炎症薬という新たな観点からの創薬の可能性を示した.
 従来失われた腎機能はもはや回復されず,加齢と共に悪化の一途をたどると考えられていた.しかし,日本の透析導入の原疾患として大きな割合を持つ糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎では厳格な降圧,蛋白尿を減少させる治療,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の阻害によりGFR低下速度を遅らせる可能性があることが知られている.
 本特集では臨床的な側面から糖尿病性腎症の新たな展開を,その領域の第一人者の先生方にグローバルな視点から執筆していただいた.日本腎臓学会と日本慢性腎臓病対策協議会では日本糖尿病学会,厚生労働省,日本医師会をはじめとして政府や多くの学会,団体に働きかけてCKD対策を積極的に行ってきた.その成果が実って新規透析導入患者数は減少傾向となり,導入原疾患第1位の糖尿病性腎症による新規透析導入患者は統計を開始して以来,初めて減少した.本特集が糖尿病専門医・腎臓専門医のみならずかかりつけ医の先生方にも読まれ,さらなる糖尿病性腎症による透析患者の減少につながれば幸いである.
槇野 博史
(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学 教授,岡山大学病院長,本誌編集委員)
特集
1.糖尿病性腎症の疫学と病態/羽田 勝計 他
2.糖尿病性腎症の診断/鈴木 芳樹
3.糖尿病性腎症の病期分類/和田 隆志 他
4.糖尿病性腎症の病理/守屋 達美
5.糖尿病性腎症の治療 1)血糖管理/荒木 信一
5.糖尿病性腎症の治療 2)血圧管理/片山 茂裕
5.糖尿病性腎症の治療 3)脂質管理/宇都宮一典 他
5.糖尿病性腎症の治療 4)食事療法/猪股 茂樹
6.腎症治療薬の新しい展望 1)抗酸化薬/井口登與志 他
6.腎症治療薬の新しい展望 2)抗AGE薬/山岸 昌一
6.腎症治療薬の新しい展望 3)炎症をターゲットとした治療薬/小寺 亮 他
6.腎症治療薬の新しい展望 4)オートファジー/古家 大祐 他
6.腎症治療薬の新しい展望 5)PPARアゴニスト/小川 大輔 他